タイムスの「フライング報道」に困惑のタクシー業界

 沖縄県に2紙ある地方紙の一社、沖縄タイムス(那覇市)が先月末に掲載した記事がタクシー業界に波紋を広げている。記事の内容は「県内126社、約3500台が加盟する県タクシー・ハイヤー協会(東江一成会長)が今春にも独自の配車アプリを導入する」というもの。紙面では「まず那覇市と周辺地域から導入を始め、約3年をかけ全県に広げる計画」「仮に空車走行時間を半減できた場合には、県内全てのタクシーで1日当たり4万6500㍑の燃費削減につながると試算している」「運用にかかる手数料は会員から徴収する予定。自前のシステムのため、各社が契約している既存の民間配車サービスより半分程度に抑えられると試算」などと同協会の公式見解のような表現がなされている。しかし、同協会の大城直人専務理事は「実態は、東江会長の個人的な構想を聞いた記者が協会としての動きだと判断して記事化したに過ぎない」と説明。さらに「フライング報道されたことが原因で当協会に対する関係者の不信感が募り、実現できるものもできなくなるのではないかと心配している」と困惑気味に語る。
 実際、那覇市に本社を置くタクシー会社の社長は「新聞報道があって以降、統一アプリの話題は多いが、ほとんどが反対意見。東江会長は一部のタクシー会社に対して自身の構想を明かしていると聞いているが、寝耳に水のタクシー会社は、新たな負荷が生じるにもかかわらず何ら協議がなされないまま決定事項のように報道されたことへの嫌悪感が大きいようだ」と語る。さらに「既存の配車アプリの対応で十分なのに、新たなアプリを導入する意義が理解できない。新聞で指摘されていた、有力3サービスに分散することによる配車注文のミスマッチは感じられない」などと私見を述べる。
 他方、記事をきっかけに国と同協会の間でも一悶着(ひともんちゃく)あったようだ。大城専務理事によれば「想定される4億円の事業費は内閣府の沖縄振興特定事業推進費補助金の活用を検討している、と書かれた点について、同府の担当者から同協会に電話がありお叱りを受けた」という。同補助金は「沖縄の直面する課題に迅速、柔軟に対応するための事業等の実施に要する経費に充てる」(那覇市ホームページより)ことを目的として各市町村に交付されるもの。例えば、那覇市では、まちのにぎわいづくり沿道環境の改善を目的に国際通りにデジタルサイネージを設置した「沖縄振興ストリートビジョン基盤構築実証事業」に活用されている。大城専務は「複数の自治体をまたぐ事業への交付は想定されていないため、内閣府とすれば補助金の内容にそぐわない記事が一人歩きすることを避けたかったのだろう」と話す。
 大城専務は「事業が始動するかは不明だが、仮に事業化に向けて動き出すのであれば、当然、会員の共通理解と、国や行政との綿密な協議を重ねた上で慎重に取り組みたい」と語る。