洋上風力のO&M専用施設が開設

作業船から乗り移る訓練のデモンストレーション

 北九州市は2011年から、風力発関連産業の集積を図る「グリーンエネルギーポートひびき」事業に取り組んでいる。洋上風力発電では大規模洋上ウインドファームが整備中で、ほかに風車の部材製造、組み立て、O&M(運用・保守管理)など、風力発電の総合拠点化を図っている。O&Mは全国的に専門人材が不足しているが、5月には全国初の洋上風力発電に特化した専門のトレーニング施設が開設されるなど、先行的な動きが加速している。O&Mはオペレーション&メンテナンスの略で、風車の運転・管理やメンテナンスのことを指し、洋上風力サプライチェーン(着床式)の中で約36%と一番大きな割合を占めている重要な工程。実はこのO&M拠点作りが国内ではほとんど進んでいない。
 市にとってもO&Mの専門人材の確保は喫緊の課題となっている。全国で30─35年までの間に不足するのは500─800人とされており、「風車は建設して終わりではない。今後30年は稼働することを見据えて保守管理のO&Mの専門人材の育成こそがもっとも重要であり、普及のかぎを握る」(市幹部)という。そのかぎとなるのが、風力メンテナンスサービスの国内最大手の「北拓」(北海道)の存在で、O&Mの重要性を認識していた市は早くから同社に誘致を働きかけ、21年に北九州支店を開設している。
 今年5月には、同支店内に洋上風力発電のO&Mに特化したトレーニング施設を完成させた。これは、日本初の施設で、洋上風力基礎(モノパイル)の実機を使用したものであり、海域の観測データを用いて様々な洋上のコンディションを再現できる。北拓と商船三井が資金を投じ、経済産業省資源エネルギー庁の補助金も受けている。建設費は数億円。
 施設は洋上風力の8メガワット級の大型風車の基礎部分を再現したタワーで、高さ約23メートル、直径6・7メートル。また、油圧シリンダーで揺れ動く装置が設置されている。ここでは海への落水の危険がある作業船(CTV)からの移乗や、タワー内でのけが人発生時の救助、クレーンの操作、ヘリコプターからの降下訓練などを行う。北拓は自社だけでなく、新規参入者など10年で1500人を受け入れる予定。市幹部は「将来的な不足が確実なプロのメンテマンを育成するトレーニング施設の開設は課題だった」と話し、「市が目指している風力発電関連産業の総合拠点化に向けた大切な第一歩になる」と期待を寄せる。実はこうしたO&Mの訓練施設は、長崎県でも動きがあり、長崎市の伊王島での訓練施設建設が昨年12月からスタートしている。今年7月にも訓練棟が開設され、26年には高島沖合に洋上タワーを建てる計画だ。
 ただ、北九州の場合は、海洋土木関連事業、船舶の運航サービス事業、海陸のエンジニアリング事業などを手掛ける「日水マリン工業」(戸畑区)のサバイバルトレーニングセンターと連携し、基礎的な訓練を日水で、より専門的な訓練を北拓の施設で行うことで、「総合的かつ実践的なトレーニングを行うことのできることも北九州の取り組みの独自性となる」(市幹部)と、長崎との差別化を強調する。北九州市では先行的な動きを生かして洋上風力の専門人材の輩出する「ベースキャンプ構想」を掲げており、国内のトップランナーとして風力発電の総合拠点化を着々と進めている。