中国は社会福祉(民生)を充実させる

【寄稿】高橋孝治の中国「深層(真相)」拾い読み(第170回)

 『人民日報』2024年5月16日付1面に「中国式現代化は、民生が重要である(中国式現代化、民生為大)」という記事が掲載されました。これを読んでまず思いつくのは、孫文の三民主義です。三民主義は、孫文が掲げた中華民国の国是で、「民族主義・民権主義・民生主義」のことをいいます。「民族主義」とは、中華民族による統治のことで、当時の中国が各国に半植民地化されていたために、自国民での統治を強く述べたものです。「民権主義」とは、現在の言葉で言う民主主義のことです。そして「民生主義」とは、社会福祉の増進のことを指します。
 そして、この『人民日報』が述べている「民生」は、三民主義の「民生」と同じ意味で使われています。すなわち、これからの中国共産党は社会福祉に力を入れると述べているのです。これまで中国共産党は選挙もない中、経済発展を成功させていることで党による統治の正当性を獲得してきました。しかし、中国の経済発展が強く望めない中で、党はこれから社会福祉を充実させるので、それが統治の正当性だとしているのです。
 このような統治の正当性の転換がうまくいくのか注視する必要があります。

●高橋孝治(たかはし・こうじ)アジアビジネス連携協議会・実践アジア社長塾講師/大明法律事務所顧問。中国・北京にある中国政法大学博士課程修了(法学博士)。専門は中国法、台湾法。法律諮詢師(中国の国家資格「法律コンサル士」。初の外国人合格)、国会議員政策担当秘書有資格者。現在は、立教大学アジア地域研究所特任研究員、韓国・檀国大学校日本研究所海外研究諮問委員も務める。