人助けをして死亡した場合の責任は?

【寄稿】高橋孝治の中国「深層(真相)」拾い読み(第189回)

 『人民日報』2024年7月25日付19面で、ある裁判事例が掲載になりました。この裁判事例を見てみましょう。

【事例】ある7人の高校生グループが日の出を見に湖へ行った。このうちの1人であるAが湖で泳ぎ、他の6人は湖畔でおしゃべりをしていた。しかし、Aは泳いでいる最中に足がつり、他のメンバーに助けを求めた。そこで、他の6人は湖に飛び込みAを助けようとした。結果としてAは助かり、残りの6人のうちの1人であるBが溺死した。
 この事故後、Aとその家族は、Bに対して慰謝料や補償金を支払わなかった。これに怒ったBの遺族は賠償を求めるべき人民法院(裁判所)に訴えた。
 この訴えに対してAの家族は、「Bが湖に飛び込んだのは、Aを助けるためだったのかの確たる証拠はない。Bの行動でAが助かったわけでもない。そのため、AはBの溺死の結果に補償や責任を負う必要はない」と主張した。

 人民法院は最終的に、当時撮影された動画に基づいて、Aを助けたのはBではないが、BはAに向かって泳いでおり、Aとその家族にはBに対する賠償責任があると判断しました。
 このような法的な責任問題は判断が難しい点がありますが、少なくとも『人民日報』に掲載されたことで類似する事例では同様の判断がなされるような流れになると思われます。

●高橋孝治(たかはし・こうじ)アジアビジネス連携協議会・実践アジア社長塾講師/大明法律事務所顧問。中国・北京にある中国政法大学博士課程修了(法学博士)。専門は中国法、台湾法。法律諮詢師(中国の国家資格「法律コンサル士」。初の外国人合格)、国会議員政策担当秘書有資格者。現在は、立教大学アジア地域研究所特任研究員、韓国・檀国大学校日本研究所海外研究諮問委員も務める。