【多様化していく不動産ビジネス】賃貸マンション型のホテル急増/「インバウンド需要」見込みデベロッパーなどが続々参入
2024年11月20日
コロナ禍を経て好調なインバウンド需要を取り込もうと、地場デベロッパーなどが宿泊事業に参入している。特に、賃貸マンション型ホテル(レジデンスホテル)事業への参入が顕著。想定では賃貸マンションとして貸し出すよりも、ホテルにしたほうが運営委託費など経費を差し引いても2倍以上の収益が上がるケースもあるという。
長期滞在型で小グループや ファミリー客の利用が増加
レジデンスホテルというのは、宿泊する旅行者があたかも自宅にいるかのように過ごせるホテルのこと。普通の生活ができるよう食器や冷蔵庫、洗濯機などの設備が完備されており、多くの場合リビングスペース、キッチン、独立したバスとトイレスペースがある。通常のホテルと違い、1室に4〜8人前後泊まることができ、滞在日数も3〜4日、もしくは1週間以上長期滞在することもできることから、国内外のグループやファミリーなどが利用しているとみられる。
このレジデンスホテルの開発に力を入れているのが、地場デベロッパーのK.ホールディングス(福岡市、倉橋髙治社長)。同社は先ごろ、福岡市内で開発したレジデンスホテル2棟を、住宅メーカーのシアーズホームグループホールディングス(HD、熊本市)に売却した。
K.ホールディングスは従来、オフィスビルや賃貸マンションなどを開発して、国内外のファンドに1棟丸ごと売却したり、自社所有で運用したりしていたが、インバウンドが好調なことを受けて、ホテル開発にも乗り出した。
倉橋社長は「レジデンスマンションは、賃貸マンション、オフィスビルに次ぐ第3の柱。すでにホテル向けの開発用地を複数購入しており、来年以降完成次第リリースしていく」と話している。
一方、ホテルを買った方のシアーズホームグループHDも、ホテル事業を強化している。同社は、熊本・福岡両県で一戸建て注文住宅を販売しているが、グループ戦略の一環でアセットマネジメント部門も強化、積極的に不動産投資している。民泊事業には2019年ごろに参入しており、このほど購入したホテル2棟を合わせると福岡市内で4棟、沖縄などで開発計画中のものを含めると8棟になる。同社の丸本社長は「今は賃貸マンションとして貸し出すより、ホテルとして貸した方が利回りは高い」とそろばんをはじく。
地場マンションデベロッパーのファミリー(福岡市、橋本崇弘社長)も、ホテル事業を強化している一社。同社は、福岡のほか佐賀、長崎など各県でファーネストマンションを展開しているマンションデベロッパーとして知られるが、大分県の湯布院などで旅館を2棟運営している。コロナ禍が収束して、今後も宿泊需要は堅調に推移すると判断、ホテル建設に着手した。一つは、長崎市内で来年5月完成予定、もう一つは福岡市内で来年12月に完成予定。長崎のホテルは13〜14室で観光およびビジネス向けで、福岡市内に建設中のホテルは1室35〜50平方メートルと一般のビジネス向けより広めに作っており、多人数でも泊まれるタイプのホテルにするようだ。
柴田産業(同市、柴田靖典社長)も、参入を決めている。中央区舞鶴に建設する予定の5階建てビルをレジデンスホテルとして活用する計画だ。客室の広さは45〜55平方メートルで、8人まで宿泊が可能という。柴田社長は、「インバウンド客の中でも、特に韓国からの観光客は家族で来日するケースが多く、レジデンスホテルのほうが向いている」と話している。九州デベロップメント(同市、白砂光規社長)は、100室前後の大型ホテルの開発に乗り出す。
不動産仲介の三好不動産(同市)のグループ会社・ミヨシアセットマメジメント(同市、笠清太社長)は、佐賀県唐津市と大分県別府市で12戸の宿泊施設を開発している。三好グループには、民泊施設など約400室のオペレーションを請け負うNEXTSTAYがあり、稼働率などのトラックデータを持っているのが強みだ。
コロナ禍でいったん減少した ホテル許可申請が再度増加へ
統計資料を見ても、ホテルが増えているのは明らかだ。
宿泊事業に参入する場合、旅館業法か住宅宿泊事業法に基づく申請をする必要があり、旅館業法では部屋数や付帯施設などの違いで旅館・ホテル、簡易宿所、下宿に分類される。住宅宿泊事業法は年間宿泊日数180日を上限とするいわゆる民泊施設を運営する場合に申請する。
福岡市が発表している生活衛生関係事業統計によると、2023年度の登録件数は708件(旅館・ホテルが613件)あるが、前年度は総数612件(同567件)で、96件も増えている。さらにさかのぼると21年度が695件(同586件)、20年度が768件(同610件)、19年度は912件(同681件)で、減少傾向にあったのが増加に転じていることが分かる。住宅宿泊事業法に基づく民泊の申請件数も急増している。20年度は119件だったのが、コロナ禍で21年度、22年度はそれぞれ94件、56件といったん低迷。だが、23年度は196件、24年度は8月末までに199件とすでに前年実績を上回っている。
言うまでもないことだが、この背景には好調な訪日外国人の誘客がある。九州への入国者数は、コロナ禍前には250万人規模だったが、新型コロナウイルス感染症の拡大でほぼゼロになった。だが、収束後は一転して急増、年間250万人に届かんばかりの勢いだ。ちなみに今年に入ってからの月ごとの入国者数は、1月が約36万6000人、2月が約37万3000人、3〜4月はそれぞれ約43万人、約44万人と倍に増えている。5〜6月は少し下がったがそれでも40万人台をキープ。韓国を中心に、中国、香港、台湾などからの入り込みが好調に推移している。稼働率によっては、ホテルのオペレーション費用を差っ引いても賃貸マンションより高収益が見込めるだけに、今後も異業種からの参入や投資筋の物色も強まりそうだ。
(長峯 泰介)