Focus Okinawa【公共交通】無料乗り放題で路線バスの利用促進/「積年の課題」解決に向けて大胆な発想で社会実験

 ユニークな手法を取り入れて、積極的な路線バスの活用を促す事業に取り組んできた沖縄県で、9月の水曜と日曜(全8日間)の路線バスを終日無料で乗り放題とする事業が行われた。初の実施となった同事業で得られた結果を活用して県は、公共交通の利用環境の改善や地域のにぎわい創出、まちづくりなどにも活用することにしている。

「公共交通の適度な利用に 転換するきっかけ」が狙い

県はポスターや特設ホームページなどを活用し「路線バスの無料で乗り放題」の県民への浸透を図った

 毎週水曜と日曜の路線バスを終日無料で乗り放題とする事業の名称は「わった〜バス利用促進乗車体験事業」。対象となったのは、離島を含む路線バス(一部を除く)とコミュニティーバス。高速道路を走るバスや空港リムジンバス、デマンドバス、実証実験中のバス、定期観光バスなどは、対象外とされた。今回の事業の狙いを県交通政策課の担当者は「一人でも多くの県民にバスに乗ってもらい、過度な自家用車利用から、公共交通の適度な利用に転換するきかっけにしてもらうことにある」と説明する。那覇市を中心に頻発する交通渋滞やバスの運転手不足、バス利用者の減少に伴うバス事業者の経営環境の厳しさといった事情も、事業の背景にある。
 事業では、電源がある場所であれば設置でき、比較的容易に人流データを収集できる「Wi─Fiパケットセンサー」を使い、センサー周辺にあるWi─Fiをオン状態にしたスマートフォンなどの台数や移動、滞留などを観測した。県の担当者は「路線バスの利用者が増えたことで、どの程度、交通渋滞の解消に効果があったのかについて検証したい」と説明する。今後、バス会社の協力も得ながら、事業を実施しなかった10月のバス利用者のデータを収集した上で検証を進める。検証結果は「できるだけ早い段階で県民に報告する」(同課)ことにしている。

始動から12年目迎えた 「わった〜バス」の成果

 ちなみに路線バスの利用促進に関する県の事業には、すべて「わった〜バス」という枕ことばが付く。「わった〜バス党」事業は「積極的な路線バスの活用により交通渋滞をはじめとする暮らしにくさの解消を目指す」ことを目的として、2012年12月にスタートした。「バスがかわる バスでかわる」をキャッチフレーズに、路線バスの利便性や環境対策の推進を図り「快適な沖縄」を実現することを活動の理念に置く。バス事業者や行政のほか、学識経験者、利用者、経済団体などで構成する「県公共交通活性化推進協議会」が目指す、公共交通の活性化に向けた取り組みの一環でもある。
 沖縄県バス協会の会長を務めた経験を持つ那覇バスと琉球バス交通の小川吾吉社長は「わった〜バス党事業が果たしてきた役割は大きい」と評価する。例えば、21年3月に県が実施したアンケートでは利用者の3分の2が「公共交通が使いやすくなった」と回答した。回答を詳細に見ると、最も評価されたのが「支払いのしやすさ」(59・1%)だった。その要因は、交通系ICカード「OKICA(オキカ)」が、14年に沖縄都市モノレールで、15年にバスで利用がスタートしたことにある。現在はカーシェアやタクシー、買い物など利用の用途が多様化しているほか、チャージ可能な場所が増えていることから、カードの発行枚数は順調に増えている。
 路線バスの利便性が向上した理由として2番目に多かったのが「遅延の改善」(46・2%)だった。「所要時間の短縮」(28・0%)と併せた「運行時間の改善」の評価が高かったのは、道路整備や交差点の改良といった対策に加えて、主要幹線道路の一部でバスレーンが延長され、朝夕の移動時間が短縮されたことが要因だ。路線バスが信号をスムーズに通過できるよう「公共車両優先システム(PTPS)」が16年度から導入されたことも大きい。

認知度の向上図った県 臨機応変に事態に対応

県の特設ホームページ「わった〜バス感謝祭 乗りほ〜DAY」

 同事業の認知度の向上と実際の利用者の増加につなげるため県は、複数の仕掛けを講じた。県内のバスセンターやバス停に事業の概要を知らせるポスターを掲示したほか、特設ホームページ「わった~バス感謝祭 乗りほ~DAY」を開設して認知度の向上を図った。また、関係するすべての自治体が、ホームページで事業の概要を紹介し、特設ホームページとリンクするURLを掲示した。さらに、バス利用者は、車内に貼られたQRコードから年齢や性別など10問ほどの簡単なアンケートに答えれば、当日に限り商業施設や飲食店舗で利用できるクーポンが発行できるようにした。わった〜バス党の法人会員を中心に事業について説明し、450を超える施設や店舗から協力を得たという。
 「事業中の軌道修正もできるだけ臨機応変に対応した」(同課)。利用者から多く寄せられた質問をまとめたQ&Aを専用サイトにアップしたほか、台風接近に伴うバスの運行情報やバスの接近情報の調べ方も専用サイトで告知した。さらに、利用者の増加によりバスに乗車できないケースが発生したことから、時間に余裕を持った移動を、特に移動距離が長い利用者には最終便ではなく早めの利用を呼びかけた。また、クーポンの対象施設から多かった質問をまとめた更新版のマニュアルを、事業実施初日の前日に伝えた。
 他方、独自に無料バスの利用を社員らに促した企業もあった。例えば、通常から公共交通機関を利用して通勤する職員に通勤費とは別に「エコ通勤手当」を支給する那覇空港ビルディングは、事務所前にポスターを掲示して周知を図った。また、琉球銀行は行内のオンライン連絡票でバス利用を促した結果、通常よりも閲覧数が2倍ほどに増えたという。今回の事業によってどのような成果が生まれたのか、また、今後のバス利用促進にどうつなげるのか。検証結果の報告が待たれる。
(竹井 文夫)