MANSION REPORT【億ション】県都中心部にも実需型億ション相次ぐ/福岡都心では“天井知らず”の価格帯に突入しさらに加熱も

 福岡市中心部の新規分譲マンションの急激な価格上昇の流れは、“青天井”の様相を呈しているが、億ションが県庁所在都市の中心部にも波及し、現状では地元の富裕層が主に購入している。背景には、土地価格を含めた建設コストの上昇があり、今後も大手デベロッパーを含めた地方展開が進んでいくとみられている。

九州各県で億ション販売 大手デベが存在感高める

 昨年1月~今年3月までで、九州では22物件の億ションが供給または竣工予定となっているが、うち半分の11物件が福岡県外となっている。列挙すると、鹿児島市では、長谷工不動産の「ブランシエラ鹿児島」(138戸、最高価格1億5000万円)、地元の竹添不動産の「ラ・カーサグランデタワーザ・甲南」(53戸、同1億2680万円)、九州旅客鉄道と日本郵政不動産の「MJR鹿児島中央駅前ザ・ガーデン」(156戸、同1億2300万円)、宮崎市では、市内初の「億ション」とされるタカラレーベンの「レーベン宮崎 ONE TOWER」(93戸、同1億1980万円)、熊本市では、日本エスコンの「レ・ジェイド上通」(138戸、同1億4990万円)、九州旅客鉄道と京阪電鉄不動産の「MJR熊本ゲートタワー」(236戸、同2億6000万円)、大分市では日鉄興和不動産と三菱地所レジデンスの「リビオタワー大分」(188戸、同1億円以上)、長崎市はフージャースコーポレーションの「デュオヒルズ出島水辺の森」(44戸、同1億2000万円)、マリモとエストラストの「ザ・プレミアム長崎駅前」(163戸、同1億6880万円)、佐賀市がフージャースコーポレーションの「デュオヒルズ城内」(87戸、同1億円以上)と、県庁所在都市で駅近など、利便性に優れた場所に億ションがずらりと建ち並ぶ(いずれも九州産業研究所調べ)。これまではみられなかった動きで、大手デベロッパーが目立つが、九州旅客鉄道など地元資本も存在感を示している。

広さと仕様上げて高価格に 地方富裕層にはステータス

 少し前まで億ションといえば、福岡都心部に限られた話だったが、地方都市でも土地代の上昇と建設費の高騰が引き金となっている。大手デベの九州支店幹部は「県都中心部でも従来であれば、70平方メートルで4、5000万円で買えたものが、2~3割上がって7、8000万円という価格帯になっている」と話し、「購入層は限られているので、最上階だけ200平方メートル以上の広さにして、仕様もグレードを上げて高く売ることは増えている。その分、下層階は値段を抑えて単価を下げるという形になっている物件もみられる」と話す。まだ地方県都では最上階ワンフロアだけというのが多く、地元富裕層による実需購入が大半だ。
 沖縄でも物件を手がけている在京デベ関係者は「沖縄ではなかなか100平方メートル以上の広さの部屋を持つマンションは少ない。広い部屋を作ろうと思えば、建築費の高騰もあってどうしても億ションになってしまう。また富裕層は仕様も上げていかないと魅力を感じてもらえない」と話す。そもそも広い部屋を供給する発想から始まったことだが、それだけで高価格帯になり、結果として、仕様を上げて富裕層にターゲットを絞る戦略になったという。
 こうした地方都市の億ション購入層の多くは、先述したように地元の富裕層が中心で、「これまで地方の富裕層は基本的に戸建て志向だったが、駅前再開発などのタワーマンションではステータス性と都心居住に価値を見いだしている。当然、住み替えでも広い部屋になるわけで、自然と最上階などの億ションになる」という。ある高級物件のモデルルームには富裕層向けの輸入キッチンをしつらえた仕様の別空間を設けるなどして、ステータス性を演出する工夫を凝らしている。
 特に、在京デベの関係者で話題になったのが、最上階2戸が完売した佐賀市県庁近くのデュオヒルズ城内だった。「佐賀市は挑戦してみたい市場だったが、億ションが即完したのには驚いた」といい、今後、県都以外の地方都市でチャレンジするデベが出てくるかもしれない。TSMC(台湾積体電路製造)で沸く熊本市も億ションの主なターゲットとなっている。億ションではないが、熊本で複数のマンションを供給している在京デベは「台湾関係者の購入は増えている。目の前にあるインターナショナルスクール行きのバス停があるのも大きいかもしれない」と話し、教育環境も購買ポイントになっているようだ。また、大分市の億ションについて「駅近が付加価値になっている。少しでも場所がずれるとお客さんの反応は全く違ったものになる」(デベ関係者)という。
 今後も建築費の高騰は続くので「一般ファミリー層が買えるマンションは少なくなっていくが、その中でも夫婦での所得が高い、いわゆるパワーカップルの購入意欲は強い。ただ、首都圏も含めて全体的に新規高額マンションの売れ行きに少し陰りも出てきている。この流れは地方にもいずれ波及してくるのでは」(在京デベ九州支店長)と一抹の不安感も漂わせている。
 不動産の調査会社・九州産業研究所の板井工典社長は「地方都市への億ションの展開は、九州のマンション供給メッカである福岡市中心部で土地の取得合戦が熾烈(しれつ)であることや、建築コスト高もあり、それを避けるように地方での事業展開が多くなったことが大きな要因」とし、「勝ちパターンを知っている在京デベとしてはブランド力をはじめ商品力(企画力)、営業力を持ってすれば、ある程度の高額物件でも勝負できる自信があることも後押ししているのだろう」と分析している。

大濠公園周辺で目立つ動き 積水ハウスが高価格けん引

 そんな地方都市の億ション旋風の震源地となっている福岡市の都心部は、億ション価格が別次元となってきている。高額物件を供給している大手デベ関係者は「5年ほど前までは平均坪単価は福岡市は200万円ほどで、中央区でも250万円だった。昨年には中央区は295万円まで上昇、この先はどこまで上がり続けるのかわからない」と大濠公園周辺を中心に局所的に“青天井”の様相を呈している。大手デベの市内供給物件の23年以降の億ションは、積水ハウスと福岡商事、西部ガス都市開発の「アイランドシティオーシャン&フォレストタワーレジデンスイースト」(310戸、同2億2000万円)、大京の「ザ・ライオンズ大濠公園」(49戸、同2億1100万円)、積水ハウスの「グランドメゾン福岡TheCentralLuxe」(123戸、同6億7000万円)、大和ハウス工業の「プレミスト赤坂けやき通り」(30戸、同価格3億6000万円)、三菱地所レジデンスの「ザ・パークハウス大濠翠景」(30戸、同2億600万円)などで、特に旧タカクラホテル跡地の積水ハウスの6億円超えの2戸の物件が押し上げているが、2戸とも売れている。大濠公園周辺で高額物件を供給するデベ関係者は「購入客の半分は市外の方。首都圏が2割ほどで、九州域内の購入者も増えており、セカンドハウスとして活用する購入者が多い」と話す。ここでも100平方メートル以上の広さという。
 大濠公園周辺で億ションを手がけたオリックス系の大京の物件では、物件エリアの坪平均価格は330万円程度だったが、そこに400万円超の物件を供給したことで、同業他社は感心したという。「実勢価格が上昇していくことを踏まえて、時間をかけて売っていった」(大手デベ関係者)と解説し、「マンションは早く売り切ってしまうことが求められがちだが、周辺物件が上がっていくのがわかっているのに、必ずしも早く売り切る必要もない。その点、この大京の販売方法には共感を覚えた」(同)と打ち明ける。実際、時間をかけた販売手法は東京などでは一般的で、「時間をかけることでブランド力を認知させていく」ことも重要な狙いの一つだという。
 今では大濠公園中心は、億ションが当たり前になっており、アメリカ領事館隣りの積水ハウスの物件は、全10戸で平均坪単価は700万円以上となっている。全戸100平方メートル以上で7億円が最高価格になっているが、すでに販売先は全戸決まっているようだ。また、隣接地にあった岩井ホテル跡地を同社が取得した。15戸ほどの高額物件になるとみられる。中央区では警固交差点のプラザ赤坂跡地でJR九州などが建築予定の「(仮称)赤坂1丁目プロジェクト」は、同600万円以上ともうわさされている。
 さらに、今後の流れを一変させるといわれているのが、大濠公園と舞鶴公園に隣接する福岡家庭裁判所跡地の再開発で、野村不動産(東京)などでつくる企業グループが手がける英高級ホテル「インターコンチネンタルホテルズ&リゾーツ」を核とした複合ビル。高層階に分譲マンションが入るが、「坪平均単価は最低でも1000万円以上になるのでは」とデベ関係者はみている。企画内容や価格など現在、水面下で調整が進められているようだ。
 一方、「億ションの転売価格」も上昇しており、早良区百道地区のタワー物件では最上階2億円がすでに倍の「4億円」のプレミアム価格になっているといわれ、“マンション転がし”も横行している。
 一般層では、中心部の億ションを避けて、東区や市営地下鉄七隈線沿いの新築マンションに人気が集まるなど新たな市場が構成されており、億ションがけん引する福岡市中心部の分譲マンション市場は天井知らずのまま、価格競争が加熱して行きそうだ。
(鳥海 和史)