新大学構想【佐賀県武雄市】武雄アジア大構想はいまだ不透明/開学に向け極めて重要な「アンケート結果」と「資金調達」
2024年08月20日
昨年2月に発表された武雄アジア大構想は、18歳人口流出に悩む佐賀県にとって待望の4年制大となる。今年10月までの文部科学省申請に向けて旭学園と武雄市は動いているが、認可に必要なアンケートの結果公表や総事業費約36億円にのぼる資金調達スキームなど不明点が多く、開学に向けて先行きが見通しにくい状況となっている。
認可申請必須のアンケート 定量的データは公表されず
武雄アジア大構想は昨年2月、佐賀女子短期大などを運営する旭学園(佐賀市)と佐賀県武雄市との間で結ばれた「新たな教育連携事業に関する包括連携協定」締結に端を発する。当時は2025年春開学を目指し、「現代韓国学部(仮称)」と「次世代教育学部(同)」を目玉とする「武雄アジア大(同)」として公表した。しかし、同年8月に開学を1年延期し26年春開学を目指すと発表。さらに、今年2月には学部を「東アジア地域共創学部(同)」の1学部140人へ変更し、「観光力・地域マネジメントコース(同)」と「韓国・メディアコンテンツコース(同)」を設けるとした。開設の陣頭指揮を取る今村正治佐賀女子短大学長は、一連の軌道修正について「県内の大学事情に即したもの」と話す。7月には同大学長候補として、日本を代表するモンゴル研究者の小長谷(こながや)有紀氏を選出している。
その中である地元経済人は「武雄という立地や少子化のご時世で、本当に大学はできるのか」と訝(いぶか)る。大学新設には文部科学省(以下、文科省)の認可が必要であり、その中で一番大きなハードルとされているのが「高校生向けアンケート」とされる。特に25年度以降の新設には厳格化された文科省のアンケートなどの審査を突破する必要があるが、これが大学関係者の中で「大学新設は十中八九無理」といわれている。文科省によると「全ての項目において、客観的なデータおよびその資料に基づき、主観を最大限排除した上で定量的に分析を行い、学生確保の見通しの確実性に関する説明をする必要」があるとしている。そのため、大学側の情熱だけで新設を認めず、学生が求める学問や学費(国立or公立or私立)、近隣競合校分析、新設組織の優位性、調査対象とした高等学校選定根拠の明記などを精査した上、新設に妥当な大学なのかを厳しく見られる。
今や私大の過半数定員割れ “韓国”で学生の確保厳しく
ある大学関係者は「私大の過半が定員割れする中、文科省はこれ以上大学を増やす気がないのでは」と話す。そのため、武雄アジア大が開設されるのか不安視されるが、旭学園側はアンケート結果を公表していない。6月14日の武雄市議会で小松政市長は「アンケート結果を集計中であり、武雄アジア大を第一志望として受験する、かつ、合格したら入学するという回答数が、入学定員(140人)を超えたとの連絡を(旭学園から)受けている」と答弁しているが、翌週の20日議会でもアンケートは公表されなかった。
また学生確保について、今村学長は「韓国文化はキラーコンテンツ」と話すなど、構想発表段階から「韓国」を全面にアピールしており、全国から学生を集める目玉としているが、現状はどうなのか。佐賀女子短大は「地域みらい学科」に韓国語文化コースを設置しているが、佐賀女子短大が公表している「収容定員充足率」によると、昨年度の同学科は入学定員110人に対し入学者は73人と充足率は約66パーセントだった。他大学も同様で「福岡大人文学部東アジア地域言語学科」の充足率は約98パーセント、「筑紫女学園大文学部アジア文化学科」の充足率は約88パーセント(両校とも昨年度実績)となっており、韓国(もしくはアジア)を掲げて学生を確保するのは、福岡都市圏の大学でも容易でないことが推測される。
市デジ田交付金再申請断念 校舎建設などハードル高く
開学が見通せない中、6月20日の市議会で武雄アジア大開設を支援する約19億円の補助金に関する債務負担行為が可決された。これには県からの補助金約6億円も含まれており、市は文科省から設置認可が下りなければ補助金は支払わないとしている。さらに、大学設置の補助金申請として内閣府に「デジタル田園都市国家構想交付金・地方創生拠点整備タイプ」で5億円を申請したが、今年3月に不採択の通知だった。これを受けて市は再申請する方針だったが、5月に「デジタル田園都市交付金は公の施設が対象と判明し、また24年度から要件が厳しくなった」(小松市長)と話し、再申請を断念している。
旭学園は総事業費のうち補助金以外で約16億円(全学年がそろう29年までの4年分の経常経費を含む)を用意する必要があるが、今村学長は「補助金ありきで(武雄アジア大構想を)進めているわけではない」としている。小松市長は6月14日の議会答弁で「旭学園の決算関係書類は市で確認しており、特定資産や現預金で約16億円を確保されているのを確認している」と述べている。旭学園も「令和5年度 事業報告書」で、今年2月に小松市長と内田信子理事長による最終的な財政計画協議において合意案となり、武雄市が合意案を市議会に説明することを確認したと報告している。しかし、最終的な資金調達がどのような形になるのか、確定した情報は出ていない。
他にも校舎建設について、別の地元経済人は「そもそも、認可されるか不透明な大学の校舎を建設する会社が現れるのか」と話す。建設途中で設置認可が下りないリスクもある中、旭学園の負担で原状回復する可能性も指摘されている。その点について小松市長は「旭学園が(武雄アジア大の設置認可に)再挑戦する可能性や、建物を生かして別の施設にする可能性もある」と話すなど、本稿締め切り日時点では“大学校舎”の建設目処(めど)も立っていない。
26年春開学には今年10月までに文科省へ認可申請する必要があり、「地方創生のエンジンになる」(今村学長)タイムリミットが迫っている。
(梅野 翔平)