変わる交通体系【タクシー】福岡で開始も未知数の日本版ライドシェア/運行主体や運行地域を限定しない「制度拡充」は事実上見送り

 タクシー会社が運行主体となる「日本版ライドシェア」が、今年4月からスタートし、九州では福岡交通圏のみが導入エリアとなり、「自家用車活用事業」の許可を受けたのは35社(6月14日時点)で、6月中旬から順次スタートしている。だが、早くも日本版ライドシェアの仕組みそのものが、浸透しないとの厳しい見方も出ている。

地方都市では配車アプリに対応していないタクシー会社が多い

突如ライドシェア解禁の流れ 福岡交通圏では最大520台

 都市部を中心としたタクシー不足を解消しようと、4月からタクシー会社の管理の下、地域の自家用車や一般ドライバーが有償で運送サービスを提供することを可能とする制度「自家用車活用事業」(日本版ライドシェア)が今年3月に創設された。利用者はスマートフォンの配車アプリを使い、一般ドライバーが指定場所で客を乗せて運ぶ。これまで日本では自家用車で客を有料で運ぶ「白タク」行為は道路運送法で原則として認められていなかった。
 昨年、新型コロナの5類移行で人の移動が活発化したことで、鉄道・バスの廃止・減便が続く中、タクシーの需要が急回復。観光地を中心にタクシー不足が顕著となり、菅義偉前首相が講演会でライドシェア導入に言及。これに河野太郎規制改革相や小泉進次郎元環境大臣などによる政府の規制改革推進会議が乗っかり、急速にライドシェア導入の議論が高まることになった。
 当初、ライドシェア解禁に対し、国交省やタクシー業界はこれに反対していたが、タクシー会社が配車や車両管理、責任などを担う形で「日本版ライドシェア」として解禁されることになった。2年限定許可の更新制となる。4月に東京などの4地域で解禁、5月以降に福岡交通圏など全国8カ所の営業区域が追加され、全国12カ所となった。
 九州では福岡市、春日市、大野城市などで構成される福岡交通圏(4415台)のみが対象となっている。例えば北九州交通圏などは対象になっていない。タクシーが不足する営業エリアや時間帯、台数などは配車アプリなどのデータに基づいて、国交省が指定するが、配車アプリの装備車両が4割程度と低調だったことがある。5割の普及率がなければ根拠となるデータが採れないためだ。地方都市になればなるほど、普及率は低く、当然ながら需要も低いので配車アプリ事業者も展開していない。
 九州運輸局は同都市圏の法人タクシー95社に意向調査を行い、41社が参入を表明、35社(6月14日時点)が許可された。車両数が不足する曜日および時間帯は、月〜木の16時台〜21時台が220台、金土の16時台〜翌5時台が520台、日の15時台〜21時台が230台で、まずはそれぞれ不足台数の5割の運行が認められるため、金土だと最大260台が稼働することになる。残りの5割は、不足車両数を見直すタイミングで一定数を各社に配分する。参加するタクシー会社では5月からライドシェアの採用活動を始め、準備を整えた会社から順次6月中旬から運行をスタートさせている。
 許可されたあるタクシー事業者は「ライドシェアというよりも、不足しているタクシー運転手を効率よく採用できる手法として活用されている側面が強い」と話す。例えば100台所有するタクシー会社はドライバー不足もあり、実際には70台ほどしか稼働できていないのが実態で、これがタクシー不足に拍車をかけることになっていたという。

配車アプリのデータで設定 今後更新で不足台数減少も

 また、別のタクシー会社トップは早くも懸念を口にする。先述のようにタクシーが不足する営業エリアや時間帯、台数などは配車アプリなどのデータに基づいて設定されるが、今回の各数値は昨年10月1日〜12月31日の各社の配車アプリのデータに基づくもの。配車アプリのマッチング率、つまり配車アプリからの依頼に対し、どのくらい配車できたかを示すもので、90%が供給不足解消の基準。
 「5類移行後、初めての忘年会などが開催されるなど、いつになくタクシーの需要が高まった特殊な時期を基に算定している」とし、これは3カ月ごとに最新のデータに見直されていくことになるが、今年1月〜3月であれば、「恐らく最大520台が300台か200台ほどに落ちたのではないだろうか」と指摘。とすれば、5割なので150台か100台程度となり、最大260台からすると100台以上は必要なくなる計算だ。
 例えば名古屋交通圏(名古屋市、瀬戸市、日進市ほか5210台)をみると、金曜日16時台〜19時台で90台不足する。この半分なので45台がライドシェア対応可能となるが、「同交通圏には約120社ものタクシー会社がある。しかも足りない時間帯は4時間ほど。割り当てはもはや宝くじと同じ」と打ち明ける。前出の福岡都市圏のタクシー会社トップは「早晩、ライドシェアは需要そのものが消えていくことになるのではないか」と示唆する。
 そもそもタクシーは不足は本当なのだろうか。実はデータ上では供給過剰となっていることはあまり知られていない。その一つに昨年の準特定地域の指定解除がある。タクシー業界では18年と21年に「特定地域及び準特定地域における一般乗用旅客自動車運送事業の適正化及び活性化に関する特別措置法(改正タクシー特措法)」が施行されたが、21年から3年経過したことで、昨年9月に見直しが行われたが、ほとんどの地域が供給過剰となっていた。
 国交省は、4月に解禁した東京、神奈川などの4都府県の一部と、長野県軽井沢町の5地域でのライドシェア実施状況を公表し、128の事業者で、5月5日時点の1カ月の運行回数が約1万2000回、稼働台数は約2200台だった。
 一方、政府の規制改革推進会議は、運行主体や運行地域を限定しないライドシェア解禁を諦めていない。6月から新法の検討を始め、年内にも結論を出し、来年の通常国会での法案提出を目指している。逆に、国交省はライドシェア拡充に慎重な姿勢を見せている。岸田文雄首相も「期限を設けず」検討を続けることになり、結論は先送りされており、ライドシェア拡充は事実上棚上げされた。
 そもそも欧米で言うところのライドシェアとは呼べないよくわからない制度だが、既存のタクシー会社に対する規制緩和も進んでおり、これらをうまく融合させることで、移動の足を確保するという社会課題の解決にもつながるのではないだろうか。
(鳥海 和史)