Focus Okinawa【本島地価】止まらない地価上昇も地域で温度差/ほぼ半数の基礎自治体で「バブル期の地価」を上回る
2024年04月20日
沖縄県の不動産価格の上昇が止まらない。観光需要の拡大を見込んだ投資マネーの流入を要因として宮古島や石垣島での上昇率が際立っているが、本島も全国平均を大きく上回る。県外からの移住者の増加に加えて、那覇市の周辺で住環境や交通網が整備され、県民の需要が拡大していることが背景にある。
全国平均上回る基準地価 最高値の8割にまで回復
「最近の状況は異常だと同業者間で話題になっていたが、まさか全国トップだとは思っていなかった」─。那覇市内の不動産業者は、ある調査結果が発表された時の心境をこう振り返る。その調査結果とは、国土交通省が昨年9月に発表した2023年の基準地価のこと。沖縄県の上昇率(全用途)が、全国平均(1・0%)を大きく上回る4・9%で、全国トップだった。ちなみに、同省が今年3月に発表した今年1月1日時点の公示地価は、全用途の平均変動率が5・5%増となり、14年から11年連続で上昇している。
沖縄県の地価(全用途)が最も高かったのは、平成バブルの末期にあたる1991年。その後、「一時は半値程度にまで下がったが、ここ10年間は上昇を続けた。その結果、現在は最高値の8割程度にまで回復している」(沖縄県不動産鑑定士協会・髙平光一会長)という。実際、91年と比較可能な県内の36市町村で見ると、全用途が上回っている自治体は18、住宅地に限れば21ある。髙平会長は「もともと地価が安かったという側面はあるが、島しょ県という地理的な特徴を加味すれば地価の上昇は異例」(髙平会長)と分析。その上で「各エリアが置かれた状況によって上昇する理由は異なる」と語る。
区画整理事業をきっかけに 人気が高まるエリアも登場
那覇市内のほかにも不動産価格が上昇しているエリアはある。昨年の基準地価では、同市周辺部や本島南部でも上昇率が高かった。髙平会長によれば「これらのエリアには共通項がある」という。土地区画整理事業が地価上昇のきっかけになっているという点だ。例えば、那覇市の南に隣接する豊見城市は、南西部の埋め立て事業に加えて、同エリアに近い地区や市役所周辺の土地区画整理事業によって住環境が整備された結果、県内のファミリー層を中心に人気が高まっている。また、那覇市の北にある浦添市は、モノレール延伸に伴う土地区画整理事業によって駅周辺でにぎわいが生まれている。さらに、那覇市の東に隣接する南風原町も、土地区画整理事業や商業地の拡大によって町が活性化し、地価の上昇局面が続いている。
本島南部で南城市の地価動向DI値が高かったのは、今年8月、大型商業施設「コストコ」が開業することが一つの要因とされる。同施設の近くには、那覇空港自動車道に直結するインターチェンジが開通する予定で、周辺では住宅地や観光地の整備も目指した大規模な区画整理事業が進んでおり、事業の完了は26年3月を予定する。しかし、髙平会長によれば「コストコの開業効果が周辺エリアの地価に影響を与えるのは当然として、これから先、どこまで影響が広がるかを予想するのは難しい」と語る。ほかにも本島南部では、同市の西にある八重瀬町も、地価が高騰する那覇市のベッドタウン的な存在として県民の住宅需要を取り込んでいる。髙平会長は「道路網の整備により那覇市との時間距離が短くなることも、建設費の高騰により那覇での一戸建てを諦めた県民の受け皿になっている」と分析する。
本島の他のエリアでは、中部にある北谷町や北部の名護市も注目されている。同町は、バブル期と比べた23年の基準地価が、住宅地で1・77倍、全用途で1・52倍だった。その背景には、米軍施設跡地を利用して区画整理事業が実施され、都市型商業施設「アメリカンビレッジ」など複数の大型商業施設が進出したほか、リゾートホテルの建設が相次いでいることがある。ちなみに同町は、「いい部屋ネット住みたい街ランキング2023〈沖縄県版〉」で5年連続の1位を獲得するなど、県民からの人気も高い。
他方、名護市が注目を集めるのは、来年夏、テーマパーク「JUNGLIA(ジャングリア)」が開業することが最大の理由だ。ただ、地価動向DI値は上昇基調にあるものの、本島の他のエリアと比べて突出しているわけではない。この点について同会長は「テーマパークの開業が近づくにつれて、従業員の住居を確保する必要が生じる。不動産市場が動きやすい条件がそろっているのは確かなので、これから地価動向に反映される」と分析する。
止まらない賃料の上昇 予測値を大きく上回る
髙平会長は「地価動向のほかに、賃料動向DI値が高かったことに関心を持った」という。賃料動向DI値は、共同住宅で「プラス53・6」、店舗・事務所で「プラス42・7」と過去最高だった前回(23年5月)の値(それぞれ52・5、39・6)をさらに上回った。しかも、前回調査における予測DI値(共同住宅12・8ポイント超、店舗・住宅5・7ポイント超)も大きく上回っている。今年5月の予測値も、共同住宅はやや落ち着くが、店舗・事務所は上昇するとみる。その理由を同会長は「新築物件の供給が低調な半面、県外ニーズの高まりも影響して賃貸物件に不足感が生じているため」と説明する。発言にある「新築物件の供給が低調な要因」とは、地価のほか、資材価格や人件費といった建設コストの高騰、金融機関の融資の厳格化などを指す。
観光需要の回復に県外マネーの流入が加わり、沖縄本島の地価は上昇局面が続く。現状を「バブル」と表現する不動産関係者も少なくない。しかし、髙平会長は、この見解には懐疑的で、「現在は、不動産売買でもうけようという投機目的の取引がほとんどない。大半が実需に基づいた結果であるため、県内の不動産がバブル状態にあるとは断言できないし、今後、バブルに突入することも考えにくい。エリアによっては、上昇率が低いところも存在する」と理由を説明する。さらに、今後は沖縄も人口減少局面に入ることが確実視される点にも注目。「全国的に見て人口減少の地域は地価が下落する傾向にあるため、中期的には上昇率が鈍化し、その後、下落局面に入るのではないか」と分析する。全国と比べて上昇率が高い沖縄本島の地価の動向に、これからも目が離せそうにない。
(竹井 文夫)