【アフターコロナ】5類移行で社会経済活動が活発に/制限解除で「需要急回復」も交通や観光現場は混乱

 2020年1月に国内初の新型コロナウイルス感染者が確認され、政府による行動制限が相次いで出された。3年余り続いたコロナ禍だったが、今年5月から新型コロナ「5類」移行によって感染者の全数把握が終了するなど脱コロナへの動きが加速している。観光やビジネス、教育現場などで日常生活が戻ってきた一方で、需要の急回復による深刻な人手不足が交通、観光業を中心に顕在化し、コロナ禍の時よりも倒産件数が増加するなどの事象もでている。

全数把握から「定点把握」へ コロナ禍で生活様式変化

 今年5月に新型コロナウイルスの感染症法上の位置づけが、季節性インフルエンザと同じ5類に移行した。これにより、法律に基づいた感染者や濃厚接触者への待機要請がなくなり、感染対応は個人、事業者の判断に委ねられた。
 また連日報道されていた医療機関などが毎日全ての感染者数を報告する「全数把握」は終了し、指定された医療機関が1週間分の感染者数をまとめて報告する「定点把握」へ変更された。
 医療提供体制も患者を幅広い医療機関で受け入れる体制に移行した。5類変更前までは検査や処方、内服薬などの窓口負担分は全額公費支援があったが、現在は一般的には3割の自己負担分が求められる。感染拡大初期には、検査キットが不足するなど混乱が生じていたPCR検査も民間検査所では有料となり、各自治体の検査キット配布事業も終了した。無料でのワクチン接種については、今年度限りでの終了が打ち出されている。
 政府が感染予防の観点から、推奨していたマスクの着用については、一足早く3月13日に原則として、個人の判断に委ねられることになった。学校でもマスク着用を求めないことを基本にすると決めた。しかし、医療機関や接客業を中心にその後もマスクの使用が見られるが、5類移行をきっかけに脱マスクが進んでいる。
 一方、日本フードサービス協会が9月に公表した今年8月度の「外食産業市場動向調査」によると、「パブ・居酒屋」業態の売上高は、19年同月の66・5%にとどまっている。観光地や繁華街などへの人流は回復したが、コロナ禍での生活様式の変化が広がり、飲食店への客足はコロナ禍前の2019年以前に戻っていない。ファストフード店やカフェチェーンでは、コロナ禍で短縮された営業時間を現在も継続する店舗も多くある。

テレワークはピークの半分 ハイブリッドワークも減少

進むテレワークからオフィスへの回帰

 7月、日本生産性本部(東京)が実施した企業などで働く人たちのテレワークの状況についての調査結果によると、企業などでテレワークを行う人は、新型コロナウイルスが拡大していた20年には30%を超えていたが、5類に移行後の7月には約半分の15%まで減った。
 20年4月の緊急事態宣言により、他者との接触を避けられるようにテレワークを導入する企業が増加した。一方で生産性やコミュニケーションが不足するなどの課題が浮き彫りになった。こうした課題を解消する新しい働き方として企業や労働者から注目されたものが「ハイブリッドワーク」だった。この働き方はテレワークに加え、オフィス出勤など複数の働き方を組み合わせることができ、現在も一部企業は継続している。
 しかし、あるオフィスメーカーの関係者は「大手企業を中心に導入が進んだハイブリッドワークもオフィス回帰が始まっている。本社スタッフ部門や営業推進部門などの事務職はテレワークを継続中のところは多いが、営業職はオフィスに戻る動きになっている」と話す。業態や都市部と地方の差異もあるが、テレワークが一つの働き方として定着している企業もある。働き方が変化する中で経営者は多様な業務形態の仕組み作りが求められている。

各地で外国人観光客増加 声出し応援が全面解禁に

各地で急激に回復する観光客

 政府が水際対策を大幅に緩和してから10月で1年を迎えた。日本政府観光局(JNTO)が発表した9月の訪日客数は218万4300人と19年同月の96・1%となり、新型コロナウイルス流行前の水準にほぼ回復し、九州域内も約27万人と回復傾向が着実に進んでいる。
 5類変更後はイベントや祭りなども通常通り開催され、コロナ禍前の情況に戻ってきている。博多伝統の夏祭り「博多祇園山笠」は4年ぶりに制限なく開催され、これまで実施された沿道の観客制限やマスク着用などの規制も撤廃された。スポーツやコンサートなどにおける観客動員の制限や行動は5類移行前に見直され、現在はプロ野球でも声出し応援や楽器を使った演奏が解禁されている。
 3年余りのコロナ禍で社会経済活動が抑制されたことは、観光関連や交通事業者を中心に離職者を増やした。現在の急激な需要回復は、当初の予想を大きく超えたことから、現場では混乱も起きている。宿泊施設では接客スタッフや清掃スタッフが十分に確保ができず、稼働率を抑えた形で営業を行う事業者が常態化している。また、交通事業者もバスの減便やタクシー稼動の低下で需要への対応が難しくなっている。

ゼロゼロ融資の返済開始 飲食店中心に倒産増加へ

 10月、帝国データバンクは23年度上半期の全国の倒産件数(負債総額1000万円以上)が4208件(前年同期34・7%増)と、上半期としては2年連続で前年を上回り、4年ぶりに4000件を超えたと発表した。増加率(年度半期ベース)は2000年度以降で最も高くなった。このうち、九州・沖縄地区の企業は合わせて約350件と前年の同時期より55%増え、コロナ禍前の19年度上半期の件数を超えた。業種別では飲食店などの「小売業」が最も多く、全体の27%に上る。倒産の理由は、「販売不振」が全体の87%を占め、県別では福岡県が185件、熊本県と鹿児島県が40件となっている。
 これは中小企業を対象とした実質無利子・無担保のいわゆる「ゼロゼロ融資」の返済が一因という見方もあるが、各金融機関は返済猶予などで対応しているケースは多い。国の資金支援を含めて、元来から経営が厳しかったところが一気に顕在化した結果ともみえる。同融資は20年3月から政府系金融機関が取り扱いを開始し、当初3年間の利払いの免除、元本の返済も最長5年先送りでき、利用は約250万件、融資額は約43兆円に達していた。